「髪はいつどんな形で薄くなり始めるのか?」「どうすれば進行を止めることができるのか?」……。これは男性にとって尽きない悩みだ。ちなみに、男性が年を経て髪が薄くなる脱毛症は「AGA」(男性型脱毛症)と呼ばれている。原因はおもに男性ホルモンだ。髪に悩む患者を10年以上にわたって診察してきた東京メモリアルクリニック平山院長、佐藤明男先生に、AGAの要因やその対策法を聞いてみた。
――先生、“髪がいよいよヤバイ”と気づくのは、皆さんどんなタイミングなのでしょうか?
「プールやシャワーの後で、濡れた髪の間から地肌が透けて見えて気がついたという人が多いですね。ドライヤーで髪を乾かそうとしたら、いつもよりも熱く感じたというのもよくあります」。つまり、髪が減ってきているからドライヤーの熱風が直接地肌に当たり、熱く感じてしまうのだという。
では、どのようなサイクルで抜け毛・薄毛は進行するのだろうか。「だいたい1日に100本ぐらい毛髪は抜けますが、そこに短い毛や細い毛が混じり始めたら要注意ですね。髪は6~7年かけて太くなって抜けますが、薄毛の人は1~2年で抜けてしまうので、髪が短くて細いのです」という。つまり、早い人は1年で進行してしまうということか!?
となると、はたして自分はAGAの進行が早いタイプなのか、遅いタイプなのかが気になる。その点について先生は「AGAは男性ホルモンの作用が増強されている方に比較的多く見られます。男性ホルモンは知能の発達や身体・骨格の発達に関係していますから、わりと知能の高い方が多いです。“若ハゲ”には頭のよい人が多いですね」と、ショッキングな発言……。自分も多少は知性があると思っているだけに、いよいよタダごとではない。
非常に衝撃的な内容だが、単純に“頭がよい人”“運動が得意な人”が抜け毛・薄毛になる確率が高くなるかというと、実はそうシンプルな法則ではないという。「男性ホルモンの感受性が高い人はAGAになりやすい。逆に男性ホルモンを大量に分泌するタイプでも、男性ホルモンを受けとる感受性が低ければ、髪に影響は出にくいです。ちなみに男性ホルモンの感受性は遺伝します。母方のおじいさんの髪が薄いと孫も薄くなる確率は高くなります。これは論文も出ています」。つまり抜け毛・薄毛を左右する男性ホルモンの感受性は母系遺伝だということだ。
運動量についても気になる。まったく運動をしなければ、抜け毛・薄毛を少しでも避けられるのだろうか。「男性ホルモンを増やさないために運動をしなければよいのかというと、そうではありません。確かにジムに行ったり水泳をしたりすると男性ホルモンが急激に増えます。しかしいくら運動で増えるといっても、あくまで一時的であって、すぐに血液に吸収されてしまうのです。むしろ運動不足による“悪しき生活習慣”が、抜け毛・薄毛に影響してしまうでしょう」。
ということは、生活習慣が大切なのか……。食事はどうしたらよいのだろうか。「一般的な栄養バランスの取れた食事を摂ればよいと思います。逆にいうと、毛髪に効く食物は特にないということです。不規則な食生活だったり、極端にビタミンやタンパク質が少ない、極端に脂肪分が多いといった食事はよくありません」。
頭皮マッサージについても先生はこういう。「肩や首のマッサージと同じだと思って、グリグリ押しても意味がありません。あれは筋肉をほぐすためのマッサージで、頭皮マッサージはツボのマッサージです。頭皮には筋肉がほとんどないので、そっと押して血行をよくすることが大事です。神経のツボをやさしく押して気持ちよくなる感じですね」。
「遺伝と生活習慣がAGA進行の要因です。私は何組かの双子の患者についても診察してきたのですが、幼少期の暮らしは同じでも、成人になってからの暮らしはそれぞれ異なります。ですが、60歳代ぐらいになると同じような薄毛になっています。『あー。遺伝なんだなぁ』と思いました(笑)」。とはいえ、一方がフサフサ、一方が薄毛という例外的な双子もあったという。「理由をたずねると、フサフサの方は若い時からブラシで頭を叩いたりどこかの漢方薬を買ってつけたりしてきたそうなんです。しっかりと対策すれば、遺伝にも打ち勝てるのかもしれませんね」。
くれぐれも不適切な発毛・育毛行為は避けてくださいと佐藤先生。医学的に検証されている発毛剤・育毛剤を、正しい用法用量で使うことが大事なのだと付け加えてくれた。